昨日のオフ会

 昨日は例によって屋根裏の散歩会であった。

 読書会テキストはローレンス・ブロックの『快盗タナーは眠らない』。最近翻訳された本だが、1960年代に書かれたブロックの初期作品だ。


 で、これが評価しづらい作品であった。まえにこの小説の設定を聞いた時は、オフ・ビートな作品と思っていたのだが、読んでみるとそれほどコミカル・タッチになっていない。事故で眠れなくなった主人公が、それを武器に世界を股にかけた活躍をするスパイものと思うと、そうでもない。トルコに行って隠された財宝を我が物にするのだが、思わぬことから牢獄に入れられ、世界各国を逃げ回りながら、とんでもない事件に巻き込まれていく。事件の中には笑って済ませられないものもある。

 主人公の内面があまり描かれないため、本気なのか冗談なのか、裏に別の目的があるのかないのか、はっきりしないのである。巻き込まれ型スパイ小説のパロディなのか。いや、そうでもないようだ。タナーは超人なのか。いや、眠らなくてもいいためひたすら勉強したために博学になっただけだ。さまざまな組織に加入していたのは、なにか大きな目的があるのか。どうも、たんなる趣味のようだ。笑っていいのか。いや、笑えない。

 ほかの方々も、この作品の評価にとまどっていた。で、話は1960年代のスパイ小説についての雑談風になっていったのだが、当時、お気楽スパイものって、それほどはなかったのではないか、という話題がでた。1940年代から50年代のお気楽私立探偵物、いわゆる軽ハードボイルドほどには、軽いタッチのスパイ小説は書かれなかったのではないか。美女を片手に世界を股にかけて活躍するスパイは、具体的にはそれほどいない気がする。これは翻訳紹介されていないだけなのか、それとももともと書かれていなかったのか。

 ところで、タナー・シリーズは1970年に一旦終了し、それから28年たって冷凍睡眠から目覚めたタナーが活躍する Tunner on Ice が書かれた。もしこの作品が翻訳されることがあれば、邦題は『解凍タナー』でいかがなものか。