- 作者: 石田衣良
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/09/01
- メディア: 文庫
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上の情報は文庫版だが、僕は図書館で借りた2004年発売の単行本で読んだ。
石田衣良は好きな作家だが、これははっきりいって失敗作といってもいいんじゃないかな。
ユイというネット世界のライフ・ガードに導かれて、ページ、ボックス、タイコ、アキラ、イズム、ダルマという六人が集まってくる最初のあたりは面白くなりそうな予感がした。ユイの設定も悪くないし、アキハバラに小さな事務所を借りてベンチャー企業を始めるあたりまでは、まあまあである。
しかし、AI機能をもった検索エンジンを開発するあたりから、どうもちょっとなあ、と思い始める。ネット・ビジネスの大物が絵に描いたような悪玉だったり、味方になるプログラマーやゲリラ活動のリーダーたちが思いっきりステレオタイプのキャラだったりと、だんだんつまらなくなり、とどめはクライマックスになるはずの敵陣への突撃作戦のショボさである。「シートベルトをしっかりと締めていただきたい。視点のスイッチは頻繁でときにめまいを生むかもしれない」などと思わせぶりに書いてあるから、期待して損した。アキハバラを埋めるほど集まったミリタリー姿のおたくたちは、どうなったんだろうか。すべてが中途半端な印象をうける。
さらにだ。この物語は、未来の語り手が過去を思い出して語るスタイルをとっている。その語り手が一種のミソとなっているのだが、これがどうにもキワモノめいた設定なのである。SFだとしても、この程度では通用しないだろう。都知事ともあろう人が、こんなに簡単にこれほど重要なことを信じちゃうかなあ。
検索エンジンの開発についてはほとんど知らない世界だが、ちょっと前に読んだグーグルをテーマにした本と比べると、あまりに現実世界とかけ離れた設定のような気がする。才能ある若者が少人数で開発する、という点ではなく(それならグーグルも同じだろう)、AI型の検索エンジンを運営する上での機材などの量で。ソフトウェアひとつあれば、検索が可能という世界ではないと思うが。
ちょっと感心したのは、心や身体に障害をもった弱者が、それを利用して危機を乗り切るあたりか。ここはいい。