MWAジュヴナイル賞1963年


 MWAジュヴナイル賞の1963年から1965年までは、受賞作、候補作を含めて、邦訳は一作もない。したがって、ぼくは読むことができない。


 1963年の受賞作は、Cutlass Island である。作者のスコット・コーベット (Winfield) Scott Corbett(1913-2006)はミズリー州カンザスシティ生れ。ミズリー大でジャーナリズムについて学び、最初は大人向きの小説を数冊書いている。処女長篇 The Reluctant Landlord (1950) は、マリリン・モンローも出演している映画「恋愛アパート」(1951) Love Nest の原作とのこと。1956年から児童向け小説を書き始め、1960年代から80年代まで年に数冊のペースで冒険もの、怪奇もの、探偵もの、SFなどを執筆し、受賞は逃したものの The Mystery Man(1970)と Here Lies the Body(1974)がMWAジュヴナイル賞にノミネートされている。トリック・シリーズやタール警部シリーズなど、シリーズものも多い。また、「自動車はどうやって走らせるの?」(1963/未訳)「飛行機はどうやって飛ばすの?」(1967/未訳)などの児童向け入門書もある。

 この年の候補作は三作。ドラ・ド・ヨングの The House on Charlton Street と、ジェーン・ラングトンの The Diamond in the Window 、それにハリエット・カーの The Mystery of Ghost Valley である。このうち、ハリエット・カー Harriett Carr については、調べがつかなかった。大人向けミステリも発表してないようだ。

 The House on Charlton Street の作者は、MWAのWebサイトをはじめ、多くの資料で Dola de John と記載されている。このためWebサイト Cozy Mystery List http://www.cozy-mystery.com/Edgar-Award-Best-Juvenile.html や、翻訳児童文学ファンのWebサイト「やまねこ翻訳クラブ」の資料 http://yamaneko.org/info/index.htm では、これを踏襲している。しかし、The House on Charlton Street の作者を検索すると、Dola de Jong の名が出てくるから、こちらが正解だろう。

 ドラ・ド・ヨング Dola de Jong(1911-2003)は、オランダのアルンヘム生れ。バレリーナやジャーナリストとして活躍していたが、ユダヤ系であったため、1940年にアメリカに亡命、第二次世界大戦をリアルにあつかった児童文学『あらしの前』(1943)[岩波書店/1961]を執筆した。続編の『あらしのあと』(1947)も邦訳されている。ド・ヨングとエドガー賞については、名前のほかにもうひとつ謎がある。ネット検索すると、彼女の The Whirligig of Time(1964)とう作品がエドガー賞を受賞したとする資料が多く現れるのだ。たしかに The Whirligig of Time はド・ヨングの作品のようなのだが、、エドガー賞の受賞リストを調べても、ジュヴナイル賞にも最優秀長篇賞にも、まったく名前がでてこない。MWA側の記録が間違いなのだろうか。(作者名の誤記を考えると、それも可能性はある)しかし、1964年に刊行された The Whirligig of Time が受賞するとしたら、1965年のはずだ。その年の長篇賞はル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』だから、誤記の可能性はまずない。ジュヴナイル賞はマルセラ・ツーム? Marcella Thum の Mystery at Crane's Landing が受賞したことになっているから、記録違いだとすると、こちらなのだろうか。疑問はつきない。

 さて、もうひとりの候補であるジェーン・ラングトン Jane (Gillson) Langton(1922- )はボストン生れ。ミシガン大学で優秀学生として理学士(天文学)を、ミシガン大学ラドクリフ・カレッジで文学修士(美術史)を取得している。1961年から児童もので作家活動を開始。候補作になった The Diamond in the Window(1962)は二作目の作品で、ニューベリー賞の次席になった『大空(そら)へ―ジョージーとガンの王子』(1980)[あかね・ブックライブラリー/2002]へと続くホール一家シリーズの第一作でもある。また、ミステリ作家としても活躍し、1964年から書き始めた元警官のハーバード大教授ホーマー・ケリーのシリーズで知られる。同シリーズの『エミリー・ディキンスンは死んだ』(1984)[ミステリアスプレス文庫]でネロ・ウルフ賞受賞。ほかに邦訳は同シリーズの『消えたドードー鳥』(1993)[ミステリアスプレス文庫]がある。2008年にも新作を出しているようだから、85歳を越えて、まだまだ元気なのだ。

 ということで、この『大空(そら)へ―ジョージーとガンの王子』を読んでみることにしようかな。