ゆうれいのでる農場


 さて、第二回のMWAジュヴナイル賞は、1961年に発行された児童ミステリから選出されている。前年の『のろわれた沼の秘密』に続いて、フィリス・A・ホイットニーが The Secret of The Tiger's Eye でノミネートされたものの、エドワード・フェントンの『ゆうれいのでる農場』が受賞した。この作品は田中とき子の訳で、小学館版《少年少女世界の名作》の53巻、「世界の受賞作品集1」[1974-07]に収められている。児童文学賞をあつめた本に収録されているのだから、やはりエドガー賞受賞作ということが邦訳された理由であろう。


 作者のエドワード・フェントン Edward Fenton(1917-1995)はニューヨーク市生れの児童文学作家。1947年から児童向け小説を発表し、1950年から55年まではメトロポリタン美術館印刷物部門の職員だった。邦訳では、『ゆうれいのでる農場』のほか、『きいろいおおきなふうせん』(1967)[学研/ようじのぶんこ3/1994]がある。ギリシャ語に堪能だったらしく、ギリシャの児童文学作家アルキ・ゼイの翻訳を行い、アメリカ図書館協会児童図書翻訳賞バチェルダー賞を三度受賞している。邦訳もあるアルキ・ゼイの『ヤマネコは見ていた』[岩波書店/1975]は原題が Wildcat Under Glass となっているから、フェントンの英訳書からの翻訳なのかもしれない。

 またフェントンは、1970年代にはヘンリー・クレメント Henry Clemrnt 名義で「刑事コロンボ/別れのワイン」「刑事コロンボ/祝砲の挽歌」など、テレビ・シリーズのノヴェライゼーションを手がけている。このうち、映画のノヴェライゼーションである『怪奇な恋の物語』(1969)が早川書房から邦訳されている。

 『ゆうれいのでる農場』の語り手は、ニューヨークに住む12歳のジェームズ・スミス・ジュニア。犯罪者の手配写真を集めるのが趣味という、探偵好きの少年だ。田舎に引っ越した従兄妹を訪ねて、休暇を過ごすことになる。従兄妹の父親の作家がローンで買った田舎の家が、題名にある「ゆうれいのでる農場」で、かつて彫刻家の老婦人の住まいだった。愛犬のマギーのほか身よりもなかった老婦人は、寂しく死んでいったのだが、彼女が持っていたとされる財産や多くの彫刻作品は、どこにも見つからなかった。

 田舎の家についたジェームズは、従兄妹とともに怪しい人影や謎の足跡などを見つけ、老婦人の残したコリー犬のマギーを飼うことになる。やがて、大雪の日、電気も電話も切れて孤立してしまった農場で、ジェームズたちの前に恐ろしい「ゆうれい」が現れる……。

 前回の『のろわれた沼の秘密』もそうだったが、都会の子どもが田舎に行って、怪しい出来事に遭遇する、というのが児童ミステリのひとつのパターンのようである。怪異現象と宝探しが、黄金のアイテムなのだ。しかし、『のろわれた沼の秘密』に比べると、この作品の登場人物は総じてうすっぺらい。ちょっと面白いのは、子供たちの味方になる田舎の「何でも屋」チャーリーくらいか。これは、もしかすると、翻訳のせいかもしれない。この本の一番の目玉作品である、ニューベリー賞受賞のジーン・クレイグヘッド・ジョージ作『極北のおおかみ少女』は、のちに『狼とくらした少女ジュリー』の題名で邦訳されているが、それを見ても、この本が抄訳で構成されているのはわかる。おそらく、『ゆうれいのでる農場』も、ページ数からみて大幅な抄訳だろう。抄訳を一概に否定はしないが、人物描写などはやはり落ちざるを得ない。

 翻訳は読みにくくはないが、主人公の少年が父親を「おやじ」と地の文で呼ぶのだけは、違和感があった。都会っ子なんだから、やはり「お父さん」ぐらいにしてほしい。