ネットの中でハードボイルドについての情報を得ようとすると、なかなか難しい。「本格ミステリ」系のサイトは、データベース的なものから本についての感想、名探偵の紹介まで、さまざまな情報が飛び交っているが、ハードボイルドとなると、あまり見つからない。もちろん、ハメット、チャンドラー、ロス・マクドナルドについてなら、それなりに書誌も確認可能だが、それ以外のものとなると、急に乏しくなる。
先週、スピレイン追悼の文章を書くのに、ちょっと検索したのだが、上記の御三家についてのサイトを除くと、参考になるようなサイトはほとんどなかった。
古今の名探偵(シリーズ・キャラクター)を網羅したミステリー・推理小説データベース Aga-Search.com http://www.aga-search.com/ でも、ハードボイルドに分類されているのは以下のものしかない。
- ダシール・ハメット コンチネンタル・オプ 私立探偵 サム・スペード
- レイモンド・チャンドラー 私立探偵 フィリップ・マーロウ
- ロス・マクドナルド 私立探偵 リュウ・アーチャー
- ミッキー・スピレイン 私立探偵 マイク・ハマー
- ラウル・ホイットフィールド 島の探偵ジョー・ガー
- ジョナサン・ラティマー 私立探偵 ビル・クレイン
- ハドリー・チェイス
- ブレット・ハリデイ 私立探偵 マイケル・シェーン
- ジョン・D・マクドナルド トラヴィス・マッギー
- チェスター・ハイムズ 墓掘りジョーンズと棺桶エド
- カーター・ブラウン メイヴィス・セドリッツ
- G・G・フィックリング ハニー・ウェスト
- ロバート・B・パーカー スペンサー
- リチャード・スターク 悪党パーカー
- ローレンス・ブロック 酔いどれ探偵 マット・スカダー
- サラ・パレツキー 私立探偵 V・I・ウォーショースキー
- スー・グラフトン 私立探偵 キンジー・ミルホーン
また、『ウィキペディア(Wikipedia)』のハードボイルドの項に挙げられた海外作家と探偵は以下のとおり。
- ジェイムズ・クラムリー:代表作は「酔いどれの誇り」「さらば甘き口づけ」。
- ギャビン・ライアル:「深夜プラス1」など多数。
- マイケル・コナリー:「ハリー・ボッシュ」シリーズ。
- ミッキー・スピレーン:「マイク・ハマー」シリーズ。
- レイモンド・チャンドラー:「フィリップ・マーロウ」シリーズ。代表作は「長いお別れ」。
- ロバート・B・パーカー:「スペンサー」シリーズ。
- ダシール・ハメット:「サム・スペード」シリーズ。代表作は「マルタの鷹」。
- ローレンス・ブロック:「マット・スカダー」シリーズ。
- ロス・マクドナルド:「リュウ・アーチャー」シリーズ。
- マイケル・Z・リューイン:「アルバート・サムスン」シリーズ。
- カート・キャノン(=エド・マクベイン):「カート・キャノン」シリーズ。
- アンドリュー・ヴァクス:「バーク」シリーズ。
これは、いかにも寂しい。第一、チェスター・ハイムズの墓掘りジョーンズと棺桶エド・シリーズやハドリー・チェイスやギャビン・ライアルは、通常、ハードボイルドには入れないだろう。それよりなにより、驚いたのは、『ウィキペディア(Wikipedia)』の以下の説明である。
ハードボイルド的推理小説の先駆けといえるのはイギリスの作家H・C・ベイリーのレジナルド・フォーチュンシリーズであるといえる。 本格的なハードボイルドは1930年代のアメリカ文学でダシール・ハメットによって使い始められ、レイモンド・チャンドラーがそれをより繊細な表現として確立するのに寄与したと言われている。また、ハリウッド映画でも多くの作品が作られた。
H・C・ベイリーのフォーチュンものがハードボイルドの先駆けだってェ? ってことは、ハードボイルドって、イギリスで始まったって事? こんな新説がいつの間にか流布していたのか、と勉強不足は羞じて、ちょっと調べてみようと思った。
『ウィキペディア(Wikipedia)』の「レジナルド・フォーチュン」の項には以下のようにある。
犯罪者に対しては自分の手で処罰することもあり、ハードボイルドの先駆けともいえる。
もし「犯罪者に対しては自分の手で処罰することも」あるのがハードボイルドの先駆けなら、ホームズもポアロもドルリー・レーンもファイロ・ヴァンスもすべてハードボイルド探偵ということになってしまう。レジナルド・フォーチュン・シリーズがハードボイルドの先駆けという説は、誰がいいだしたんだろう? 乱歩の『海外探偵諸説作家と作品』にも、中島河太郎の『海外推理作家事典』にも、森英俊の『世界ミステリ作家事典』にも、こんな説は載っていない。
『ウィキペディア(Wikipedia)』の履歴を調べると、ベイリーの件は今年になって追加されているから、考えられるのは、最近になって出た『フォーチュン氏を呼べ』の解説か。手元にこの本がないので、すぐに確認はできないが。
しかし、まさかまさか、マイクル・コリンズの隻腕探偵ダン・フォーチューンと勘違いはしてないよなあ。