ハードボイルドとH・C・ベイリー


 ネットの中でハードボイルドについての情報を得ようとすると、なかなか難しい。「本格ミステリ」系のサイトは、データベース的なものから本についての感想、名探偵の紹介まで、さまざまな情報が飛び交っているが、ハードボイルドとなると、あまり見つからない。もちろん、ハメット、チャンドラー、ロス・マクドナルドについてなら、それなりに書誌も確認可能だが、それ以外のものとなると、急に乏しくなる。


 先週、スピレイン追悼の文章を書くのに、ちょっと検索したのだが、上記の御三家についてのサイトを除くと、参考になるようなサイトはほとんどなかった。


 古今の名探偵(シリーズ・キャラクター)を網羅したミステリー・推理小説データベース Aga-Search.com http://www.aga-search.com/ でも、ハードボイルドに分類されているのは以下のものしかない。


 また、『ウィキペディアWikipedia)』のハードボイルドの項に挙げられた海外作家と探偵は以下のとおり。


 これは、いかにも寂しい。第一、チェスター・ハイムズの墓掘りジョーンズと棺桶エド・シリーズやハドリー・チェイスギャビン・ライアルは、通常、ハードボイルドには入れないだろう。それよりなにより、驚いたのは、『ウィキペディアWikipedia)』の以下の説明である。

ハードボイルド的推理小説の先駆けといえるのはイギリスの作家H・C・ベイリーのレジナルド・フォーチュンシリーズであるといえる。 本格的なハードボイルドは1930年代のアメリカ文学ダシール・ハメットによって使い始められ、レイモンド・チャンドラーがそれをより繊細な表現として確立するのに寄与したと言われている。また、ハリウッド映画でも多くの作品が作られた。


 H・C・ベイリーのフォーチュンものがハードボイルドの先駆けだってェ? ってことは、ハードボイルドって、イギリスで始まったって事? こんな新説がいつの間にか流布していたのか、と勉強不足は羞じて、ちょっと調べてみようと思った。

 『ウィキペディアWikipedia)』の「レジナルド・フォーチュン」の項には以下のようにある。

犯罪者に対しては自分の手で処罰することもあり、ハードボイルドの先駆けともいえる。

 もし「犯罪者に対しては自分の手で処罰することも」あるのがハードボイルドの先駆けなら、ホームズもポアロもドルリー・レーンもファイロ・ヴァンスもすべてハードボイルド探偵ということになってしまう。レジナルド・フォーチュン・シリーズがハードボイルドの先駆けという説は、誰がいいだしたんだろう? 乱歩の『海外探偵諸説作家と作品』にも、中島河太郎の『海外推理作家事典』にも、森英俊の『世界ミステリ作家事典』にも、こんな説は載っていない。

 『ウィキペディアWikipedia)』の履歴を調べると、ベイリーの件は今年になって追加されているから、考えられるのは、最近になって出た『フォーチュン氏を呼べ』の解説か。手元にこの本がないので、すぐに確認はできないが。

 しかし、まさかまさか、マイクル・コリンズの隻腕探偵ダン・フォーチューンと勘違いはしてないよなあ。