- 作者: 石上三登志
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/01/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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やっと昨日購入して、本日読了。
ドイルからエリック・アンブラーまで、主に欧米の「いわゆる「黄金期」の古典の、ほとんどすべてを読みなおしながら」、年代順に解読しなおすという作業で、これが面白くないわけがない。
なかでも特に興味深かったのは、
- ドイルの『緋色の研究』や『恐怖の谷』の第二部が、じつはハードボイルド・ミステリの原型だった
- クイーンは「レーン四部作」で、前バズラー的(=ドイル的)なものから、「名探偵の死」まで、ミステリの歴史をたどっている
- フレンチ警部とメグレ警部の関係
- アンブラーの探偵小説的な意義
などであろうか。
じつは僕も、昔からドイルの『恐怖の谷』第二部が大変に好きであった。で、今回、この本の巻末年表を見ていてはじめて認識したのだが、このドイル最後の長篇は、『トレント最後の事件』よりあとに書かれた作品なのだった。(第一次大戦中)この五年後に、クリスティーとクロフツがデビューしているのだ。たった五年の差である。
もうひとつ、これは本文でも触れられているが、乱歩とハメットの短篇デビューは同年なのである。この二人が同じ年の生れというのは、生誕100年の時に何度かあちこちで触れられていたから知っていたが、デビューも同じだったのだ。おまけに、ハメットが処女長篇『血の収穫』の連載をする1927年〜28年に、乱歩は休筆から「陰獣」(1928)を経て長篇『孤島の鬼』(1929年1月から連載)と、変身をとげている。この二人は、まさに同時代作家だった。(ということは、つまり、乱歩よりもチャンドラーのほうが年上なのだ!)
また、アンブラーやクイーンの項で、戦争と探偵小説の関係を論考しているが、ここでは笠井潔の論にはまったく触れられていない。石上三登志は笠井論を知らなかったのか。知ってて、無視したのだろうか。
そういえば、この本の最後はクイーン論になっているが、そこで、
だから、今はそうでなくても、いつか、どこかで、「探偵小説」が継承されていく可能性は十二分にある。そう思いたい。
その時、当然基本となるのは、クイーンが、そして正史がそうしたように、「黄金期」の作品群。その時、すでに過去のものとなっている「探偵小説」は、また新しく生きはじめる。
と結語されている。
これは欧米のミステリ界について言及した言葉なのだろうか。日本の「新本格」以降の状況については、まったく無視。いっそ、すがすがしい。
「あとがき」にも
この頃、(中略)名のみ知る未訳物があっちこっちから出はじめ、勿論ほとんど読んだのだが、これがおおむねつまらなかったこと。
と、都筑道夫と語り合ったとある。これは『赤い右手』の頃だそうで、つまり、国書の「世界探偵小説全集」以降の「古本格ミステリ」翻訳ブームはお気にめさないようだ。
そんなこんなで、とにかく、一気に読んでしまった。