風の証言

十角館の殺人』の新装改訂版文庫に、綾辻行人が「新本格バッシング」について書いているらしいことを、Webサイト「ミステリっぽい本とプログレっぽい音樂」 http://blog.taipeimonochrome.ddo.jp/wp/markyu/index.php?p=1403 で知った。で、確認したら、たしかに当時のことを書いている。

 それによると、「すでに活動を休止した某探偵小説愛好会の一部メンバー」がバッシングの急先鋒であり、彼らはその年の新人たちを会報の「斬る!」と称した座談会報告で、片っ端からこき下ろしていたという。


 なるほど。

 もちろん、この「すでに活動を休止した某探偵小説愛好会」とは、わたしも所属していた「怪の会」であり、会報とは「地下室」のことである。その年の新人の作品を評する「五賞を斬る!」は毎年の恒例行事であり、いまも形を変えて継続している。ここ数年の内容はここで読める。→http://www.asahi-net.or.jp/~JB7Y-MRST/YUT/GOS/GOS_F.html 当時と、参加者メンバーはかなり変化したが、意識はほとんど変わっていないと思うので、まあ、あの頃もこんな感じだった。参加者も若かったから、もう少し過激な表現があったかもしれないが、作品の評価の仕方はおおむね同じだと思っている。当時は鮎川哲也は特別会員だったから、綾辻の言うように、会報は送っていたはずだ。座談会だから特別に送ったのではなく、毎月送っていたのである。*1

 ご存じない方のためにいっておくと、「怪の会」は《幻影城》という雑誌のファン・クラブからはじまり、《幻影城》が休刊してからは「探偵小説愛好会」として長らく活動を行なっていた。会員数は、最も多いときで100人ちょっと、「五賞を斬る!」が新本格バッシングを行なっていた頃は、おそらく70〜80名ではないか。*2もし、この会が「新本格バッシング」の牙城だったとしたら、バッシングの実態とは、数人のメンバーが、限定された会員しか読むことのない同人誌で行なっていた放言、ということになる。*3評論家たちがこぞってバッシングに血道を上げていた、といわれ、私もそんな気になっていたが、綾辻が「五賞を斬る!」を真っ先に上げていることを考えると、公の場で言われたバッシングはそれほどなかったのではないか? 「新本格」は本当に虐げられていたのだろうか? 彼らの被害妄想だった可能性もある。

 もちろん、虐げられた者の痛みは、本人にしかわからないだろう、とは思う。なにせ、こちらは悪口雑言罵詈讒謗、さまざまな表現を用いて彼ら「新本格」系新人の作品を貶めていた側である。しかし、念のために言っていくと、「新本格」だから、あるいは「本格」だからつまらない、と評価したのではない。作品の出来に満足いかなかったから、否定したのである。その辺の雰囲気は、ここ数年の内容を読んでもらえばわかるだろう。われわれ(とあえて言わせてもらおう。わたしはその単なる一人でしかないが。)は、つまらないと思った作品は、いつでもつまらない、といっていただけのことである。もちろん、時と場合では、(つまり公の場では)言いづらいこともある。ジャンルを育てる方便も、ないわけではないだろう。しかし、仲間内で、自分たちの金で発行している同人誌では、誰はばかることなく、好き勝手に作品を評してきた。そうした特定少数のための同人誌に対して、プロの作家が文句をつけるのは、程度が知れる。*4

ところで、taipei氏の

この新本格バッシングをしていた本格マニアの方々と、「恋文」以降の連城氏の作品をケナしていた方々の姿がどうにも重なってしまうのですけど、実際はどうだったんでしょう。

 「怪の会」だけでいうのなら、「恋文」以降の連城氏の作品も、概ね好意的に見られていたと思う。 前身が《幻影城》ファン・クラブだったこともあり、《幻影城》出身作家には多少甘かったことは否めない。しかし、わたしのこの記憶は、ちょっと信用できないかもしれない。

*1:ちなみに、いわゆる新本格作家が次々とデビューしていた頃、わたしは参加していないが、もし参加していたら、おそらくほとんどの作品に否定的評価を下していただろう。会報に掲載された座談会報告は、わたしにとって毎年の楽しみであり、大笑いしながら読んでいた。あれは面白い読物だった。

*2:当時、私は一会員だったから、正確な数字は不明だが、大体こんなものだったはずである。

*3:会報「地下室」は国会図書館に収められているから、研究者が読もうと思ったら読める。また、近くミステリー文学資料館にも収められるはずである。労さえいとわなければ、「バッシング」の詳細など、過去の歴史を検証することは可能である。

*4:この部分は、最初「そうした同人誌に対して、プロの作家が文句をつけるのは、筋違いというものである。」と書いたが、ある方の指摘で自分の認識不足であると判断し、修正した。