約束の地

約束の地

約束の地


これは山岳冒険小説なんだろうか。違うよな。
これは動物死闘小説なんだろうか。違うよな。

冒険小説だとしたら、ここには血わき肉おどるような、いわゆる「冒険」はない。
動物小説としては、失格であるとか言えない。作者の動物の描き方は、作中にでてくる動物愛護団体と似たような(方向性は違うが)「擬人化」でしかない。少なくとも、イノシシの眼に、哀しみを見るような動物小説を、ワタシは認めない。

そうしたジャンル小説を期待すると、すべて裏切られる。自然(とそれを具現化した動物たち)と人間との死闘は、ここにはない。滅び行く猟師たちと街に住まざるをえない現代人との苦悩も、おざなりだ。独立愚連隊の面々といいながら、みんな単純に「いい人」の集まりじゃないか。この程度の証拠で、ゴミ焼却場と新種の害虫との関連を安易に示唆するのは、いかがなものか。殺人事件とその犯人像にいたっては、何をかいわんやである。

文句を言えば、際限なくでてくる。

そんなことは、おそらくこの作者は先刻ご承知なのだ。わかっていて、あえてこういう書き方をしているのだろう。たぶん、そうだ。そうに違いない。そういうことにしておこう。たぶん、安易なジャンル小説を脱却したところに、この作品の価値があるのだろう。

作者は動物小説を書きたかったわけではあるまい。滅び行く狩人たちを哀悼したかったわけでもあるまい。

もりこみすぎてしまった作品なんだろうな。しかし、作者の思いは、すべてを盛り込むことにこそあったのだろう。これだけ盛り込んで、なおかつ、それなりにまとまっているのは、感心する。

この誠実な作品を否定する気は毛頭ない。決して嫌いな小説ではない。しかし、これはワタシが読みたい小説ではない。