他のなにものでもない小説

 ずっとミステリの分類ということを考えているのだが、いまだに結論は出ない。分類はあくまで便宜上のもので、これしかない、というような絶対的な分類法などない、というのは分かっていのだが……

 分類する、というのは世界観を明確にする、ということだとつくづく思う。本来、未分化な、混沌とした世界に、メスを入れて分けていくわけだから、どこにメスをいれるか、何を基準に分けていくのか、というのは、世界をどうとらえるかの問題になってくる。ミステリを分類することは、ミステリをどうとらえるか、ということと同義である。きちんとした分類ができない、というのは、いまだミステリをどうとらえればいいのか、自分の中で明確なものがない、ということなのだ。


 ところで、「本格ミステリ以外のなにものでもない小説」という言い方を耳にすることがあるが、僕はこのような小説を思い浮かべることが出来ない。小説というのは、いや小説に限らずあらゆるものは、さまざまな側面を持っている。「他のなにものでもない小説」というものがありうるのだろうか? あるわけがない。


 どんな小説でも、例えば主要登場人物の年齢に目をつければ、あるものは「青春小説」であり、あるものは「壮年小説」であり、あるものは「老人小説」となる。恋愛が扱われていれば「恋愛小説」の側面もあり、ハラハラドキドキがあれば「サスペンス小説」の側面もある。ユーモラスな筆致で書かれていれば、「ユーモア小説」と言ってもいい。作者がどう思ってその小説を書こうが、読み手はそこに何を読み取ってもいい、というのが現在の文学論の常識のはずだ。したがって「他のなにものでもない、あるきまったジャンルの小説」などというものは、本質的に想定不能である。逆に、どんな小説にも、あるジャンルの要素を見出すことは可能である。いや、「小説」という文芸ジャンルすら、境界線はあいまいである。


 分類、ジャンル分けというのは、絶対的なものでなく、相対的なもので、ある切り口を示した、ということでしかない。

 では、ミステリというジャンルは、何を基準に世界を切り取った状態をいうのか。

 考えられるの答えは、ひとつは「犯罪」であり、ひとつは「謎」であろう。