ミステリの歴史

アメリカ1850年代〜1860年代(2)

■男たちの行く道/ダイム・ノヴェルの誕生とピンカートン探偵社の設立 ――アメリカ 1850年代〜1860年代 ダイム・ノヴェルという名称は、1860年6月に刊行が開始された《ビードル・ダイム・ノヴェル》という叢書名に拠っている。10セント(ダイム)で買えるため…

アメリカ1850年代〜1860年代

■流血と血糊は女の領域/ルイザ・メイ・オルコットのスリラー ――アメリカ 1850年代〜1860年代 ヘイクラフトはポー以降三十数年間のアメリカ探偵小説史を、こう総括する。 もし読者がニック・カーターとその同僚たちや、なかば小説的なピンカートンの回想録な…

ロマン・フィユトン(8)

■ロマン・フィユトン/その後のガボリオ ――フランス 1840年代〜1860年代 ガボリオが創設したジャンル、すなわち探偵=刑事が犯罪事件の謎を解いていく過程を中心的主題とした小説は、当時のフランスではなんと呼ばれていたのか。現在のフランスでは、このジ…

ロマン・フィユトン(7)

■ロマン・フィユトン/エミール・ガボリオのルコック探偵シリーズ(承前) ――フランス 1840年代〜1860年代 『ルルージュ事件』以降のルコック・シリーズの内容を、『推理小説の源流』の紹介をもとに確認しておこう。

ロマン・フィユトン(6)

■ロマン・フィユトン/エミール・ガボリオのルコック探偵シリーズ ――フランス 1840年代〜1860年代 ガボリオの略歴について、簡単に触れておこう。 エミール・ガボリオは、1832年にフランス南西部の町ソージョンで生れた。公証人だった父親について各地を転々…

ロマン・フィユトン(5)

■ロマン・フィユトン/ガボリオと探偵小説の現実性 ――フランス 1840年代〜1860年代 中島河太郎は東都書房版・世界推理小説大系6巻『ガボリオ』の解説を、こう書き出している。 現代の推理小説の読者では、ガボリオの作品とは縁がないかもしれない。戦後この…

ロマン・フィユトン(4)

■ロマン・フィユトン/デュマとポーの仏訳 ――フランス 1840年代〜1860年代フレイドン・ホヴェイダの『推理小説の歴史はアルキメデスに始まる』は、フランス大衆小説について、こう語っている。 謎解き小説だけを推理小説ときめてかかる必要もないだろう。探…

ロマン・フィユトン(3)

■ロマン・フィユトン/ポール・フェヴァルとポンソン・デュ・テラーユ ――フランス 1840年代〜1860年代 ポール・フェヴァルは王立裁判所判事の父と貴族出身の母の間に、五人兄姉の末っ子として、1816年にレンヌで生まれた。もともと生活は楽ではなかったが、1…

ロマン・フィユトン(2)

■ロマン・フィユトン/ウージェーヌ・シューと『パリの秘密』 ――フランス 1840年代〜1860年代 十九世紀前半、とくに1830年代から50年代のフランスは、ヴィクトル・ユゴーに代表されるロマン主義の時代であった。ロマン主義とは、古典主義時代の規範や制約に…

ロマン・フィユトンについて

■ロマン・フィユトンについて ――フランス 1840年代〜1860年代 十九世紀フランス大衆小説は新聞連載小説(ロマン・フィユトン)としてはじまった。フランスの探偵小説も、その枠のなかで生成し発展することになる。

「刑事の回想録」

■「刑事の回想録」 ――イギリス 1850年代〜1860年代 「犯罪実話読物の系譜」の項でも述べたように、ウォーターズの『ある刑事の回想録』(1852米版/1856英版)以降、英国では世紀末にかけて「刑事の回想録」と銘打ったものが多数出版された。これらは現職ま…

センセーション・ノヴェル(6)

■センセーション・ノヴェル(6)/その後のコリンズ 『娯楽としての殺人』のウィルキー・コリンズの項には、以下のような文章がある。 ディケンズはおなじ時代のほとんどすべての作家に影響を及ぼしたが、彼に影響をおよぼした小説家はただひとりコリンズの…

センセーション・ノヴェル(5)

■センセーション・ノヴェル(5)/ウィルキー・コリンズと『月長石』 ウィルキー・コリンズに戻ろう。 『月長石』*1について語るときに必ず引用されるのは、T・S・エリオットの「最初にして最長、最良の現代イギリス探偵小説(modern English detective n…

センセーション・ノヴェル(4)

■センセーション・ノヴェル(4) シモンズは『ブラッディ・マーダー』で、チャールズ・フェリックス Charles Felix の『ノッティング・ヒルの怪事件』 The Notting Hill Mystery について触れている。1862年から翌年にかけて週刊誌《ワンス・ア・ウィーク》…

センセーション・ノヴェル(3)

■センセーション・ノヴェル(3) コリンズが「世界最初の長篇探偵小説」と言われることもある『月長石』を発表したのは1868年である。この作品に触れる前に、1860年の『白衣の女』からはじまったセンセーション・ノヴェルのブームの中で書かれた、その他の…

センセーション・ノヴェル(2)

■センセーション・ノヴェル ――イギリス 1850年代〜1860年代 チャールズ・ディケンズ(1812-1870)がある程度重要な役割をする職業的探偵を登場させたのは『マーティン・チャズルウィット』(1843-1844連載)が最初だった。この物語で殺人事件を捜査するのは…

センセーション・ノヴェル

■センセーション・ノヴェル ――イギリス 1850年代〜1860年代 ポーによって生み出された「探偵小説」は、当時の読者に実際に受けたのだろうか。『娯楽としての殺人』によれば、 ポーは私信のなかで、大衆は彼自身がより価値のあるものとかんがえている仕事より…

ガボリオとポール・フェヴァル

『ルコック探偵』の第二章「家名の栄誉」は、事件の過去にさかのぼった物語で、全体の6割以上ある。革命を背景にした歴史小説、秘密結婚やら政略結婚をめぐる家庭悲劇、恋愛と冒険がごった煮になっている。「恋と冒険」というと面白そうだと思うかもしれな…

しばらく準備

ポーまで書いたので、次は「ポーからドイルまで」の予定。で、ここがじつは弱いのである。ほとんど読んでいる作品がない。

E・A・ポーと探偵小説の誕生(承前)

■犯罪小説から探偵小説へ/E・A・ポーと探偵小説の誕生(承前) 探偵小説はポーの「モルグ街の殺人」によって始まる。 これ以前にも犯罪を、あるいは恐怖を題材にした多くの文学作品が書かれていた。「モルグ街の殺人」は、それらとは何が違ったのだろうか…

E・A・ポーと探偵小説の誕生

犯罪小説から探偵小説へ/E・A・ポーと探偵小説の誕生 1841年4月。エドガー・アラン・ポーが《グレアムズ・マガジン》に「モルグ街の殺人」を発表し、ここに探偵小説の歴史がはじまった。ジュリアン・シモンズがいうように、「エドガー・アラン・ポーこそ…

ポーにいたる道(4)

■■ポーにいたる道(4)/犯罪実話読物の系譜(承前)/ヴィドックの『回想録』 前回述べたように、英国の刑事の前身であるボウ・ストリート・ラナーズは、1820年代にはいくつかの著名な事件で手柄をたて、ある程度の社会的認知を得た。『リッチモンド』(182…

ポーまでの図解その1

こんなものを作ってみました。 しかし、うまく整理できんなあ。図解って難しい。

ポーにいたる道(3)

■■ポーにいたる道(3)/犯罪実話読物の系譜 犯罪事件や犯罪者についての情報は、いつの時代にも人々の関心を惹きつける。現実の犯罪事件や実在の犯罪人をあつかった読物は、社会の矛盾を描くことだったり、政敵への非難だったり、大衆に犯罪の恐ろしさを訴…

ポーにいたる道(2)

■■ポーにいたる道(2)/ゴシック・ロマンスについて ジュリアン・シモンズは『ブラッディ・マーダー』の中で、ポーについてこう言っている。 彼が生涯追いつづけたのは芸術の女神――その真の名は“センセーション”にほかならなかったのだ。(p58) ポーの作品…

歴史のお勉強

はじめてみると、いつまでたっても終わらない。『ケイレブ・ウィリアムズ』はなんとか読み終わったけど、ゴシック・ロマンスやら犯罪実話の系譜やらを確認しだすと、もう僕の手には負えなくなってきた。

ポーにいたる道(1)

ミステリー=探偵小説の歴史・発展史を、自分なりにもう一度敷衍してみようと考えたのだが、とてもじゃないが、数日じゃできない。今の僕の能力では数ヶ月でも無理だ。数年がかりで、ゆっくりと勉強しながら、まとめてみようと思う。